デンマークは電気自動車(EV)の普及において欧州をリードする国のひとつとして確固たる地位を築いています。2025年5月時点で、EVは新車販売の61%を占めるまでに成長し、これは2024年の48%から大幅な増加を示しています。この急速な成長は、政府の積極的な税制優遇措置、充電インフラの大幅な拡充によって支えられています。
Research: Vanessa Laza and Manus AI / Translation, Data Visualization and Editing: Shota Furuya
1. 市場概要
デンマークのEV市場は、過去6年間で劇的な変革を遂げてきました。この変化の背景には、政府による戦略的な政策介入、テクノロジーの革新、そしてユーザーによる受容の根本的な変化があります。デンマーク政府が推進する税制インセンティブは、EVの普及率向上における主要な推進力となっており、その効果は市場データにも明確に表れています。
2025年現在、デンマークのEV市場は成熟期に入りつつあり、アーリーアダプターから主流化への移行を実現しています。テクノロジーの成熟、インフラの充実、そして経済的インセンティブの効果的な組み合わせが、この移行を可能にしています。特に注目すべき点は、バッテリー電気自動車(BEV)がプラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)を大幅に上回る成長を示していることです。
市場の成長は、単に数量的な拡大にとどまらず、質的な変化をともなっています。ユーザーの選択肢は大幅に広がり、価格帯も多様化しています。また、企業向け市場と個人向け市場の両方で堅調な成長が見られ、EVの導入が社会全体に浸透していることがうかがえます。
EV年間新規登録台数
デンマークのEV市場の成長は、2019年から2024年にかけて指数関数的な拡大を示しています。2019年の新規EV登録台数は9,309台で、全車両登録に占める割合はBEVが2.4%、PHEVが1.7%という控えめなスタートでした。
2020年には市場が本格的な拡大期に入り、新規EV登録台数は32,522台に急増しました。この年の特徴は、BEVが7.2%、PHEVが9.3%と、PHEVがBEVを上回る成長を示したことです。これは、当時の技術的な制約や、ユーザーの航続距離への不安を反映していたと考えられます。
2021年は、市場の転換点となりました。新規EV登録台数は65,287台(乗用車登録の35.2%)に達し、内訳はBEVが24,832台、PHEVが40,455台となりました。この年もPHEVが市場を牽引していましたが、BEVの成長率が加速しはじめた兆しが見られました。
2022年は、新規EV登録台数が65,287台と前年と同水準を維持しながら、はじめてBEVがPHEVの市場規模を上回りました。BEVは30,718台(全体の20.7%)を記録し、PHEVの26,425台(17.8%)を上回りました。この逆転は、バッテリー技術の向上、充電インフラの拡充、そしてユーザーの意識の変化を反映しています。
2023年は、新規EV登録台数は79,283台に達し、BEVが36.2%、PHEVが9.6%という、圧倒的にBEVが優位な構造が確立されました。
2024年の市場データは、EV市場が成熟期へと移行していることを示しています。新規EV登録台数は96,660台となり、BEVが89,568台(55.8%)、PHEVが7,092台(4.1%)という構成となりました。PHEVの大幅な減少は、BEVの技術的な成熟やインフラ整備の進展が影響していると考えられます。
2024年の月別の販売パターンを分析すると、毎四半期末(3月、6月、9月、12月)に顕著なピークが見られました。特に12月は11,802台の新規EV登録を記録し、年間でもっとも高い数値となりました。このような季節性は、税制年度の影響やユーザーの購買行動パターンを反映しています。
2025年の最新動向と市場の新たな段階
2025年に入り、デンマークのEV市場は新たな成長段階に突入しています。最新のデータによると、2025年5月の単月でEVが新車販売の61%を占めるという驚異的な数字を記録しました1 MyRepublica. (2025年6月3日). “EVs account for 61 pct of new car sales in Denmark in May“. 。この数字は、デンマークがEV普及において世界のトップグループにいることを明確に示しています。
2025年1月から5月までの累積データでは、EV販売が前年同期比で49.7%増という堅調な成長を示しています2 Focus2Move. (2025年6月18日). “Danish Auto Sales – Facts & Data 2025“. 。この成長は、市場の一時的な急騰ではなく、持続可能な構造的変化を表しています。
市場構造の変化と競争環境
デンマークのEV市場における競争環境は、2025年に入って大きく変化しています。2025年1月から6月までのデンマークにおけるBEV販売台数トップ10車種を見ることで、従来のTesla一強体制から、より多様化した競争構造への移行がわかります。
もっとも多く販売されたのは Volkswagen ID.4 で3,559台、次いで Skoda Elroq が3,098台、Volkswagen ID.3が2,243台となっています。その他、Toyota や Tesla、Audi など、さまざまなメーカーの車種がランクインしています。
全体を見ると、Volkswagen の車種が複数ランクインしており、デンマーク市場における同グループの強さがうかがえます。同社のID.シリーズの成功と、デンマーク市場に特化したマーケティング戦略の効果を示しています3 Focus2Move. (2025年6月18日). “Danish Auto Sales – Facts & Data 2025“. 。
2位の Skoda は前年から急成長しており、チェコブランドの高いコストパフォーマンスがデンマークの消費者に受け入れられていることを示しています。
また、Tesla や Toyota などのグローバルブランドも一定の存在感を示しています。販売台数はトップと10位で約3倍の差があり、人気車種の偏りも見られます。
2. 充電設備
デンマークの充電インフラは、EV市場の成長と歩調を合わせて、順調な拡大を遂げています。2020年から2024年にかけて、充電ステーションの数は着実に増加し、普通充電(AC)と急速充電(DC)設備の累積で35,869件が導入されていました。2025年5月までのデータによれば、43,862件へと増えています。
AC充電設備は、2020年には3,035件でしたが、年々増加を続け、2025年には36,891件に達しています。特に2022年以降は、導入ペースが加速していることが見て取れます。
DC充電設備も同様に増加傾向にあり、2020年の512件から2025年には6,971件となりました。AC設備に比べると件数は少ないものの、こちらも毎年着実に増加しています。
全体として、デンマークでは電気自動車の普及に合わせて、充電インフラがバランスよく拡充されています。今後も両タイプの設備導入が進むことで、利用者の利便性はさらに向上していくと考えられます。
2025年のインフラ発展動向
2025年に入り、デンマークの充電インフラは、量的な拡張から質的な向上へと焦点を移しつつあります。最新の動向としては、PowerGo と Clever という二大充電ネットワーク事業者による大規模な拡張プロジェクトが注目されています。
PowerGo は2025年に入り、300以上の新しい充電ポイントを設置するプロジェクトを発表しました4 Mobility Plaza. (2025年5月27日). “Clever gains access to nearly 1,000 new EV chargers in Denmark“. 。同社は、デンマーク国内16の自治体において1,600以上の公共充電ポイント設置に関する19件の入札に勝利しており、今後数年間でデンマークの充電インフラの状況を大きく変える可能性があります。
特に注目すべき点は、PowerGo が Lillebælt Syd に設置した14基の超高速充電器です。これらの充電器は最大出力400kWを誇り、大型EVや商用車の急速充電需要に対応しています。この種の超高速充電インフラは、長距離輸送や商用利用におけるEV普及の重要な基盤となっています。
Clever は2025年5月に、PowerGo との戦略的パートナーシップを発表し、約1,000基の新しいEV充電器へのアクセスを獲得しました。この提携により、Clever One の顧客は、全国65か所の高速・超高速充電ポイントを含む、PowerGo の現在および今後のすべての充電ステーションを利用できるようになりました。
このパートナーシップの戦略的意義は、単なる充電ポイント数の増加にとどまりません。都市部、農村部、高交通量ハブを戦略的に結ぶネットワークの構築により、デンマーク全土でのシームレスなEV利用が可能となっています。
政府主導のインフラ投資戦略
デンマーク政府は、2025年も充電インフラへの戦略的投資を継続しています。特に注目すべきは、EVトラック向けの専用充電インフラ整備計画です。政府は、全国25カ所にEVトラック専用の充電パークを設置する計画を発表しており、各充電パーク間の距離を60km以内に設定することで、商用車の電動化を強力に支援しています5 Trans.info. (2025年6月16日). “Denmark to invest millions in electric truck charging stations“. / EU規則では、2026年までに主要なEUルート上に60kmごとにEV充電ステーション(出力400kW、2028年までに600kWへ増強)、2028年までに主要道路の半分に120kmごとにトラック・バス用の充電ステーション(出力1,400kW~2,800kW)を設置することが義務付けられています。。
この商用車向けインフラ整備は、デンマークの脱炭素化戦略の重要な柱となっています。商用車は走行距離が長く、燃料消費量も多いため、電動化による環境効果は乗用車以上に大きいとされています。政府の戦略的な投資により、物流業界全体でのEV転換が加速することが期待されています。
また、E.ON によるコペンハーゲン-オーフス間の高速道路充電ステーション設置プロジェクトも、2025年末の完成を目指して進行中です6 State of Green. (2025年6月19日). “Charge Your Electric Vehicle along the Danish Highways“. 。この路線はデンマークの東西を結ぶ主要幹線であり、長距離移動におけるEV利用の利便性を大幅に向上させることが期待されています。
住宅地での充電インフラ整備も、重要な政策課題のひとつとなっています。政府は、住宅組合での充電ポイント設置に対する補助金プログラムを継続しており、5,000万DKK(約67億円)の予算を充電インフラの拡張に充てています7 European Alternative Fuels Observatory, Denmark: Incentives and legislation. 。このプログラムは、集合住宅に住む人々のEV導入における障壁を取り除く、重要な役割を果たしています。
テクノロジー革新と充電体験の向上
2025年のデンマークにおける充電インフラは、単なる充電設備の提供から、包括的な充電体験の提供へと進化しています。最新の充電ステーションには、スマートフォンアプリとの連携、リアルタイムでの利用状況表示、予約機能、決済システムの統合など、先進的な機能が標準装備されています。
PowerGo の最新充電ステーションでは、最大出力480kWを実現する次世代充電技術が導入されています8 Electrive.com. (2025年6月6日). “PowerGo charging network expands in Europe“. 。このテクノロジーにより、大容量バッテリーを搭載した最新のEVでも、15〜20分程度で80%の充電が可能となっています。
また、再生可能エネルギーとの統合も進んでいます。多くの充電ステーションでは、太陽光発電や風力発電と連携することで、真の意味でのゼロエミッション充電が実現されています。これは、再生可能エネルギー先進国としてのデンマークの地位と、EV普及戦略が完璧に融合していることを示しています。
さらに、充電ネットワークの相互運用性も大幅に改善されています。Clever や PowerGo をはじめとする主要事業者間でローミング協定が締結されており、ユーザーは単一のアプリやカードで全国の充電ステーションを利用できるようになっています。この利便性の向上は、EV利用における心理的な障壁を大きく軽減しています。
3. 政府の政策
税制インセンティブの戦略的設計
デンマークのEV普及成功の最大の要因は、政府が設計した包括的で戦略的な税制インセンティブ制度にあります。この制度は、単なる補助金ではなく、ユーザーの行動を根本的に変える経済的誘導メカニズムとして機能しています。
現行の登録税制度では、BEVは登録税の60%割引を受けており、実質的に登録税の40%を支払っています9 European Alternative Fuels Observatory. “Denmark: BEVs Take Over in 2024 with 51.5% market share“. January 11, 2025. / ACEA (European Automobile Manufacturers’ Association). “Tax Benefits and Incentives: Electric cars | 27 EU member states (2025)“. March 2025. 。一方、PHEVは登録税の35〜50%割引を受けています。この段階的な税制構造は、消費者をより環境負荷の少ない選択肢へと誘導する強力なインセンティブとなっています。
ただし、この優遇措置は段階的に縮小されており、2025年には多くの車両で税負担が増加しています。例えば、436,500 DKK(約1000万円)以上のBEVは2025年に11,427 DKK(約27万円)の増税となり、PHEVは車両価格に応じて9,750~29,524 DKK(約23万〜68万円)の増税となっています10 FDM (Forenede Danske Motorejere). “Se hvor meget afgiften på elbiler og plugin-hybrider stiger i 2025“. August 13, 2024. 。これらの税制変更は、2020年12月に可決された法律に基づく段階的な引き上げの一環として実施されています11 FDM (Forenede Danske Motorejere). “Se hvor meget afgiften på elbiler og plugin-hybrider stiger i 2025“. August 13, 2024. 。
さらに、2024年に初回登録されたゼロエミッション車両については、CO₂排出量に基づく所有税として2025年に半年ごと420 DKK(約1万円)を支払う必要があります12 Motorstyrelsen (Danish Motor Vehicle Agency). “Vægtafgift, grøn ejerafgift og CO2-ejerafgift stiger fra 1. januar 2025”. December 20, 2024.。この制度は、2020年に政府と議会多数派が合意した「道路交通のグリーン転換協定」に基づいて段階的に導入されており13 Motorstyrelsen (Danish Motor Vehicle Agency). “Vægtafgift, grøn ejerafgift og CO2-ejerafgift stiger fra 1. januar 2025“. December 20, 2024.、環境負荷に応じた公平な課税システムの構築を目指しています。
なお、デンマークでは2025年に新しいEVに対する直接購入補助金は提供されておらず、税制優遇措置が主要な政策手段となっています14 European Alternative Fuels Observatory. “Denmark: BEVs Take Over in 2024 with 51.5% market share“. January 11, 2025.。
2025年の税制改革と新たな優遇措置
2025年に入り、デンマーク政府はEV普及をさらに加速させるため、新たな税制改革を実施しています。もっとも注目すべき点は、グリーン投資に対する減価償却率を108%に引き上げた措置です15 Regfollower. (2025年6月10日). “Denmark: Parliament approves green depreciation in tax reform“. 。この制度は2025年1月1日から2026年12月31日まで適用され、持続可能な生産を支援し、環境目標に合致する投資に対して、従来の100%から8%高い減価償却率が認められています。
この新制度は、企業によるEV導入やEV関連インフラへの投資を強力に後押しすることが期待されています。特に、商用車の電動化や充電インフラの設置において、企業の投資判断に大きな影響を与えると予想されます。
現行の車両登録税制度についても、2025年に詳細な調整がおこなわれています。ゼロエミッション車に対する優遇措置として、2026年前に登録された車両については、計算された税額のうち40%のみの支払いで済み、基本控除額は165,000DKK(約380万円)に設定されています16 MyRepublica. (2025年6月3日). “EVs account for 61 pct of new car sales in Denmark in May“. 。この控除額は段階的に調整され、2035年までに徐々に満額課税へと移行する予定です。
登録税の計算構造もより精緻化されています。2025年の制度では、最初の72,900DKK(約170万円)に対しては25%、72,900DKKから226,500DKK(約170万円〜約515万円)の部分に対しては85%、それを超える残額に対しては150%の税率が適用されます17 MyRepublica. (2025年6月3日). “EVs account for 61 pct of new car sales in Denmark in May“. 。この累進的な税制構造により、高額車両ほど税負担が重くなる一方で、ゼロエミッション車は大幅な優遇を受けることができます。
企業向けインセンティブの拡充
デンマーク政府は個人向けだけでなく、企業向けのEVインセンティブも大幅に拡充しています。企業向けの主要な優遇措置として、BEVには基本控除として165,000DKK(約380万円)が適用され、ガソリンエンジン車(50g CO₂/km未満)の45,000DKK(約104万円)と比較して大幅に有利な扱い18 European Alternative Fuels Observatory. “Incentives and Legislation – Denmark.“(2025年4月18日更新) を受けています。
また、バッテリー税額控除として、電動車両(PHEVを含む)は最初の45kWhまでのバッテリー容量1kWhあたり1,700DKK(約4万円)の控除を受けることができます19 CleanTechnica. “The New Danish Vehicle Taxes Are Still Crazy Complicated.“(2021年1月5日)。これらの控除は、企業の車両調達コストを大幅に削減し、フリート車両の電動化を促進しています。
2021年には登録税の優遇制度が導入され、BEVは計算された登録税の40%のみを支払うことになりました20 European Alternative Fuels Observatory. “Incentives and Legislation – Denmark.“(2025年4月18日更新) 。この割引率は2026年から2030年まで毎年8ポイントずつ段階的に増加し、2030年までに80%に到達し、その後2031年から2035年まで毎年4ポイントずつ増加して2035年までに100%に到達する予定です。この長期的な予見可能性により、企業は中長期的な車両調達計画を立てやすくなっています。
社用車の私的使用に対する課税(BIK: Benefit in Kind)については、車両の登録価値の25%が課税対象となります21 European Alternative Fuels Observatory. “Incentives and Legislation – Denmark.“(2025年4月18日更新) 。2023年時点で、車両価値が300,000DKK(約680万円)以下の部分については23.5%の税率が適用されます22 PWC Tax Summaries. “Denmark – Individual – Income determination.“(2025年6月27日)。BEVは登録税の軽減により課税対象価値が低くなるため、従業員にとって有利な税制上の扱いを受けることになり、中価格帯のEVが特に優遇され、大衆市場でのEV普及を促進しています。 さらに、職場での充電に対する雇用主の電気代支払いは非課税となっており、プラグインハイブリッド車がBIK計算で30,000DKK(約68万円)の追加課税を受ける一方で、BEVは15,000DKK(約34万円)の控除を受けることができます。これらの包括的な優遇措置により、企業のEV導入が積極的に促進されています。
充電インフラ支援政策
政府は充電インフラ整備の支援政策も展開しています。EV所有者は2024年1月1日から電気税還付として94.63 øre/kWh(VAT込み、約0.95 DKK/kWh=約20円/kWh)の還付を受けることができ、これは家庭および職場での充電コストを大幅に削減する効果があります22(European Alternative Fuels Observatory. “Incentives and Legislation – Denmark.“)。
職場での無料充電制度も重要な政策ツールとなっています。BEV所有者は職場での無料充電を受けることができ、雇用者が負担する職場での充電は従業員にとって非課税となっています(2023年から2026年まで)。これは通勤コストの削減と企業のEV導入促進の両方に寄与しています23 European Alternative Fuels Observatory. “Incentives and Legislation – Denmark.“(2025年4月18日更新) 。
住宅組合での充電ポイント設置に対する補助金制度も継続されています。住宅組合は充電設備設置費用の最大25%の補助金を受けることができ、9250万DKK(約21億円)の予算が2023年から2025年にかけて充電インフラ拡張に充当されており、集合住宅居住者のEV導入障壁を取り除く重要な役割を果たしています24 European Alternative Fuels Observatory. “Incentives and Legislation – Denmark.“(2025年4月18日更新) / Ampeco. “Denmark’s EV Revolution: Tax Benefits and Infrastructure Boost.” 。
さらに、デンマーク政府は公共充電インフラ開発に5000万DKK(約11億円)を配分し、電気トラック用の25の新しい充電パークを計画しており、最初のサイトは2025年に運用開始予定です。また、EV充電インフラに関する国家知識センターの支援に600万DKK(約1.4億円、2023〜2025年)が充当されています25 European Alternative Fuels Observatory. “Incentives and Legislation – Denmark.“(2025年4月18日更新) 。
政策の持続可能性と将来展望
2025年7月時点で、デンマークには購入補助金やVAT減税制度はありません26 European Alternative Fuels Observatory. “Incentives and Legislation – Denmark.“(2025年4月18日更新) 。これは、税制インセンティブが十分に効果的であり、追加的な直接補助金が不要であることを示しています。この政策アプローチは、財政負担を抑制しながら市場メカニズムを活用する巧妙な設計となっています。
しかし、2025年に入り、税制の不確実性が市場に影響を与えはじめています。自動車販売業者は、顧客が税制変更への懸念から購入を控える傾向があることを報告しています。この状況を受けて、デンマーク税務省は年末まで税率を引き上げないことを発表し、夏休み前に政党間協議を実施することを約束しています。
Mobility Denmark のマッズ・ロルヴィグ(Mads Rørvig)CEOは、以下のように述べています27 Xinhua News Agency. “EVs account for 61 pct of new car sales in Denmark in May.” (2025年6月2日)。
「デンマーク人は新しいモビリティ、特にグリーンモビリティに対する意欲を示しています。しかし、年末の自動車税制の行方に関する不確実性により、顧客が購入を控える傾向が見られることを懸念しています。」
さらに同CEOは、税務省の発表について次のようにコメントしています28 Xinhua News Agency. “EVs account for 61 pct of new car sales in Denmark in May.” (2025年6月2日)。
「協議が発表されたことは前向きです。これは市場に期待を生み出します。そして、消費者と業界に必要な安全性と予見可能性を提供する合意につながることを期待しています。」
こうした政策の不確実性は、市場の短期的な変動要因となっていますが、長期的なEV普及トレンドには大きな影響を与えていません。政府の明確なコミットメントと業界との継続的な対話により、政策の予見可能性が維持されることが期待されています。
国際的な政策協調と欧州戦略
デンマークのEV政策は、欧州連合の気候変動対策と密接に連携しています。2030年までに温室効果ガス排出量を70%削減するという国家目標は、EU全体の脱炭素化戦略と歩調を合わせており、EV普及はこの目標達成の重要な手段として位置づけられています。
気候・エネルギー・公益事業省(Ministry of Climate, Energy and Utilities)は、より効率的で回復力のあるエネルギー供給システムの構築を目指しており、EV普及はエネルギーシステム全体の最適化の一環として推進されています。
デンマークは2025年1月から欧州連合の議長国を務めており29 Danish EU Presidency. “Programme of the Danish EU Presidency.“、EV普及と充電インフラ整備に関する欧州全体の政策調整において主導的役割を果たすことが期待されています。この国際的な責任は、デンマーク国内のEV政策をさらに強化する動機となっています。
4. 結論と今後の展望
デンマークの電気自動車市場は、2019年から2025年にかけて世界でも類を見ない急速な成長を遂げました。2025年5月時点でEVが新車販売の61%を占めるという実績は、デンマークが世界のEV普及をリードする地位にあることを明確に示しています。
この成功の要因は、政府の戦略的な税制インセンティブ、充電インフラの計画的な拡充、そして民間企業と市民社会の積極的な参画にあります。特に、BEVの登録税完全免除という大胆な政策は、ユーザーの行動を根本的に変える効果的なメカニズムとして機能しました。
2025年の最新動向を見ると、市場は量的拡大から質的向上へとフェーズを移しています。充電インフラは高水準の密度を実現し、充電体験も大幅に改善されています。企業向けの新たな税制優遇措置により、商用車の電動化も加速することが期待さています。
今後の課題としては、税制の長期的な予見可能性の確保、充電インフラの質的向上の継続、そして欧州全体のEV政策との協調が挙げられます。デンマークの経験は、他国のEV普及政策にとって貴重な参考事例となっており、その成功モデルの国際的な展開が期待されます。
🏢 主要な機関・団体
デンマークEVユーザー協会
Elbilforeningen
デンマークEVユーザー協会(Elbilforeningen)は、デンマークのEV普及において中心的な役割を果たしている民間団体です。同協会は世界EV運転者連盟(GEVA:Global alliance of EV drivers association)の加盟団体として、国際的なEV推進ネットワークの一翼を担っています。
同協会の主要な目標は、BEVの普及を促進し、支援する取り組みを推進することです。具体的には、住宅を所有していない人々の充電権利の擁護、充電料金のガソリン・ディーゼル価格に対する競争力確保、充電ステーションの増設推進などの活動をおこなっています。
デンマークEVユーザー協会の政策提言活動は、デンマーク政府のEV政策形成に大きな影響を与えています。同協会はユーザーの視点から政策提案をおこないい、実用的で効果的なEV普及策の実現に貢献しています。特に、集合住宅居住者の充電アクセス改善や、充電インフラの利便性向上において、同協会の提言が政策に反映されています。
デンマークモビリティ協会
Mobility Denmark
デンマークモビリティ協会(Mobility Denmark)は、デンマークの自動車メーカー、自動車輸入業者、充電インフラ事業者、ファイナンス・リース会社、カーシェアリングおよびレンタカー事業者を代表する業界団体です。
この団体は、84年以上の歴史を持ち、これまで「自動車製造業者・輸入業者連合」「自動車輸入業者連合」「デンマーク自動車輸入業者協会」などの名称で活動してきました。近年の自動車産業の大きな変化を受け、現在の名称となっています。
デンマークでは、電気自動車の普及や車両のリサイクル率向上など、持続可能なモビリティへの転換が進んでいます。デンマークモビリティ協会は、こうしたグリーンモビリティの推進や、充電インフラの整備、カーシェアリングやリースなど多様な移動手段の普及を支援しています。
本団体は、デンマーク国民の多様な移動ニーズに応え、人やモノの新しい移動のあり方を提案し、デンマークの気候目標達成にも貢献しています。
気候・エネルギー・公益事業省
Ministry of Climate, Energy and Utilities
気候・エネルギー・公益事業省(Ministry of Climate, Energy and Utilities)は、デンマークのEV政策の中核を担う政府機関です。同省は気候変動対策の責任機関として、2030年までに温室効果ガス排出量を70%削減するという野心的な目標の達成を目指しています。
同省の戦略は、単なる車両の電動化にとどまらず、エネルギーシステム全体の効率化と回復力強化を包含しています。EV普及は、再生可能エネルギーの統合、エネルギー貯蔵、スマートグリッドの発展と密接に連携した総合的な政策として推進されています。
PowerGo
PowerGoは、100%再生可能エネルギーを活用したEV向けの充電インフラを提供する企業です。オランダを拠点に、ヨーロッパ7カ国で1700カ所以上の充電ポイントを展開しており、特にデンマークでは今後2年間で1600カ所の公共充電ポイントを新たに設置する計画があります。
PowerGoは、アプリを通じて簡単に充電ポイントを検索・利用できるサービスも提供しており、持続可能なモビリティの普及を目指しています。
Clever
Clever は、デンマークに本社を置くEV向け充電インフラ企業です。全国に約50,000の充電ポイントと1,475の急速・超急速充電器を展開しています。
個人・法人・住宅協会向けに充電ソリューションを提供し、自宅用充電ボックスのレンタルや企業向けサービスも行っています。
サブスクリプション型の「Clever One」や電力供給サービス「Clever Power」も特徴です。
免責事項
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- 1MyRepublica. (2025年6月3日). “EVs account for 61 pct of new car sales in Denmark in May“.
- 2Focus2Move. (2025年6月18日). “Danish Auto Sales – Facts & Data 2025“.
- 3Focus2Move. (2025年6月18日). “Danish Auto Sales – Facts & Data 2025“.
- 4Mobility Plaza. (2025年5月27日). “Clever gains access to nearly 1,000 new EV chargers in Denmark“.
- 5Trans.info. (2025年6月16日). “Denmark to invest millions in electric truck charging stations“. / EU規則では、2026年までに主要なEUルート上に60kmごとにEV充電ステーション(出力400kW、2028年までに600kWへ増強)、2028年までに主要道路の半分に120kmごとにトラック・バス用の充電ステーション(出力1,400kW~2,800kW)を設置することが義務付けられています。
- 6State of Green. (2025年6月19日). “Charge Your Electric Vehicle along the Danish Highways“.
- 7European Alternative Fuels Observatory, Denmark: Incentives and legislation.
- 8Electrive.com. (2025年6月6日). “PowerGo charging network expands in Europe“.
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- 11FDM (Forenede Danske Motorejere). “Se hvor meget afgiften på elbiler og plugin-hybrider stiger i 2025“. August 13, 2024.
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- 13Motorstyrelsen (Danish Motor Vehicle Agency). “Vægtafgift, grøn ejerafgift og CO2-ejerafgift stiger fra 1. januar 2025“. December 20, 2024.
- 14European Alternative Fuels Observatory. “Denmark: BEVs Take Over in 2024 with 51.5% market share“. January 11, 2025.
- 15Regfollower. (2025年6月10日). “Denmark: Parliament approves green depreciation in tax reform“.
- 16MyRepublica. (2025年6月3日). “EVs account for 61 pct of new car sales in Denmark in May“.
- 17MyRepublica. (2025年6月3日). “EVs account for 61 pct of new car sales in Denmark in May“.
- 18European Alternative Fuels Observatory. “Incentives and Legislation – Denmark.“(2025年4月18日更新)
- 19CleanTechnica. “The New Danish Vehicle Taxes Are Still Crazy Complicated.“(2021年1月5日)
- 20European Alternative Fuels Observatory. “Incentives and Legislation – Denmark.“(2025年4月18日更新)
- 21European Alternative Fuels Observatory. “Incentives and Legislation – Denmark.“(2025年4月18日更新)
- 22PWC Tax Summaries. “Denmark – Individual – Income determination.“(2025年6月27日)。BEVは登録税の軽減により課税対象価値が低くなるため、従業員にとって有利な税制上の扱いを受けることになり、中価格帯のEVが特に優遇され、大衆市場でのEV普及を促進しています。
さらに、職場での充電に対する雇用主の電気代支払いは非課税となっており、プラグインハイブリッド車がBIK計算で30,000DKK(約68万円)の追加課税を受ける一方で、BEVは15,000DKK(約34万円)の控除を受けることができます。これらの包括的な優遇措置により、企業のEV導入が積極的に促進されています。
充電インフラ支援政策
政府は充電インフラ整備の支援政策も展開しています。EV所有者は2024年1月1日から電気税還付として94.63 øre/kWh(VAT込み、約0.95 DKK/kWh=約20円/kWh)の還付を受けることができ、これは家庭および職場での充電コストを大幅に削減する効果があります22(European Alternative Fuels Observatory. “Incentives and Legislation – Denmark.“) - 23European Alternative Fuels Observatory. “Incentives and Legislation – Denmark.“(2025年4月18日更新)
- 24European Alternative Fuels Observatory. “Incentives and Legislation – Denmark.“(2025年4月18日更新) / Ampeco. “Denmark’s EV Revolution: Tax Benefits and Infrastructure Boost.”
- 25European Alternative Fuels Observatory. “Incentives and Legislation – Denmark.“(2025年4月18日更新)
- 26European Alternative Fuels Observatory. “Incentives and Legislation – Denmark.“(2025年4月18日更新)
- 27Xinhua News Agency. “EVs account for 61 pct of new car sales in Denmark in May.” (2025年6月2日)
- 28Xinhua News Agency. “EVs account for 61 pct of new car sales in Denmark in May.” (2025年6月2日)
- 29Danish EU Presidency. “Programme of the Danish EU Presidency.“