ベルギーの電気自動車(EV)市場は、効果的な税制インセンティブにより、急速に普及が加速しています。また、EUで唯一、企業の社用車のEV化に成功しています。このレポートでは、ベルギーにおけるEVの市場動向、政府の政策、主要機関・団体とレポートなどを概観します。
Research and Text: Vanessa Laza / Translation, Data Visualization and Editing: Shota Furuya
1. 市場概要
EV年間新規登録台数
ベルギーのEV市場は、2019〜2021年にかけてBEV普及のS字カーブがはじまり、2022年以降、本格的な普及加速期に入った見ることができます。
具体的には、2019年のEV新規登録台数は17,716台(BEV 8,886台、PHEV 8,830台)でしたが、2020年には前年比171%増の48,002台(BEV 14,996台、PHEV 33,006台)となりました。ここではPHEVが増加の大半を占め、この傾向は2023年まで続きます。
2022年から2023年にかけて、ベルギーではBEVの普及が加速します。2022年に37,815台だったBEV新規登録台数は、2023年に93,382台へと大幅に増加し、前年比の増加率は97%となりました。2024年は、9月までのデータで見ても、BEVの新規登録台数は97,038台となっており、BEVが主流となっていく傾向が見てとれます。(一方で、PHEVの新規登録台数は56,714台と前年比で21%減少しています。)
2024年1月〜9月までの月間新規登録台数を見ると、BEVの新規登録台数は毎月9,000台を上回っている一方で、PHEVの新規登録台数はほぼ毎月減少しており、この傾向はより顕著になってきていることがわかります。
この2024年の月次データを乗用自動車全体の新規登録台数に占める割合で見た場合、BEV+PHEVの割合がほぼ毎月50%弱となっており、すでにベルギーではEVがICEに拮抗していることがわかります。
こうしたEV市場の展開は、税制優遇措置によって、EVがICEよりも大幅に手頃な価格になっていることが要因となっています。
企業の社用車EV化
ベルギーにおけるEV普及促進の特徴として、企業の社用車EV化が欧州でも飛び抜けて進んでいる点があげられます。T&Eが発表したデータによれば、2024年上半期の企業の社用車新規登録台数に占めるBEVの割合は、EU平均が12.4%であったのに対して、ベルギーは35.3%でした。
これは、政府が税控除を政策的に活用し、企業のEV購入にインセンティブを設定した結果です(後述)。T&Eのリリースでは、次のように述べられています。
ベルギーは、企業の社用車市場でEVへの移行をリードするという、本来やるべきことをおこなっている唯一の国である。その背景には、ICEに対する減税措置を段階的に廃止するという財政改革がある。
充電設備
2020年、ベルギーには累積で8,003件の充電ポイントが導入されていました(AC 7,592件、DC 411件)。2021年は前年比54%増の12,259件、2022年には同じく前年比94%増の23,830件と順調に増加しています。
2022年以降にEVの新規登録台数が大幅に増加したことと並行して、充電ポイントの導入も大幅に増えました。2024年10月時点では、累積で71,078件(AC 66,852件、DC 4,226件)となっています。
このような充電ポイントの増加は、人々の航続距離への不安を軽減し、EVへの移行促進に役立っています。
2. 政府の政策
インセンティブ
ベルギーでは、EVに対するインセンティブと補助金が重要な役割を果たしています。北部フランドル地方(オランダ語圏)でEVの導入率が大幅に上昇した理由のひとつに、自動車登録税の優遇措置があり、EVは自動車登録税と流通税が免除されています。2021年以前に登録されたPHEVには登録税が免除されていました。
南部ワロン地方(フランス語圏)とブリュッセルでは、BEVに61~4,960ユーロの自動車登録税と年間82.27ユーロの流通税がかかる一方で、付加価値税(VAT)は2023年に6%に引き下げられました。
もうひとつのインセンティブとして、政府は2020年から2026年まで、企業によるBEVの購入と充電に使用した電気料金の全額を税控除する政策を実施しました。2026年以降、政府は控除率を65.5%に引き下げる予定です。
フランドル地方では2016年から2020年にかけてEV購入に対する補助金を支給していました。政府は、2024年から2027年まで、BEVに対して新たに5,000ユーロの補助金を支給します。この補助金は2025年には4,000ユーロ、2026年には3,000ユーロと段階的に減額されていきます。
その他に、車両のCO2排出量に応じて異なる税金が課されており、91gCO2/km を1g超えるごとに税金が加算されます。
ブリュッセル、へント、アントワープなどの大都市では規制を変更し、ICEの参入を制限しようとしています。また、欧州委員会が提案した2030年までにEU域内で販売されるバスはゼロエミッション・バスに限定されることになっており、規制による誘導が図られています。
3. 主要な機関・団体とレポート
🏢 機関・団体
EVベルギー:ベルギーのゼロエミッション・モビリティ連盟
EV Belgium: The federation for Zero-emission Mobility in Belgium
140以上の企業と12,000人以上のEVドライバーを代表する連盟であり、ゼロエミッション車への移行を支援することに尽力しています。研究者、機関、企業、新たなモビリティのユーザーと協力しています。同連盟は、大企業が持続可能な解決策を見つけ、EVの普及を促進する法的枠組みを改善し、eモビリティの重要性に関する一般の認識を広めるのを支援しています。
連邦公共サービス・モビリティ&トランスポート(モビリティ省)
Federal public service mobility and transport (Ministry of Mobility)
政府はモビリティ省を通じて、EVに関する国の規制や政策、EV購入者への税制優遇措置、環境目標などを定め、持続可能な交通開発を進めています。同省は、国のインフラを改善し、充電ポイントを増やすことを監督しています。
📝 レポート
電気自動車:米国際貿易局 ベルギー・コマーシャルガイド(2024年1月)
Electric Vehicle: Belgium – Country Commercial Guide
概要:ベルギーのEVセクターは、有利な政府政策、バッテリーコストの低下、消費者意識の高まりなどを背景に、今後数年間で大きく成長する見通しである。EV充電インフラ、バッテリーの生産、技術革新、改造、リサイクル、先進自動車向け部品/入力、および/または技術移行に関連するその他の分野にビジネスチャンスが存在する。
4. 参考文献
- European Union. (2024). Belgium. European Alternative Fuels Observatory.
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Transport and Environment (2024) “The corporate sector continues to lag behind private households for EV uptake” Press release, September 3, 2024.
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