世界の最先端を行くノルウェーの電気自動車(EV)市場は、さまざまなインセンティブと法規制の効果的な導入により、継続的な成長を記録しています。このレポートでは、ノルウェーにおけるEVの市場動向、政府の政策、主要機関・団体とレポートなどを概観します。
Research and Text: Riccardo Rossi and Phuong Linh Nguyen / Translation and Editing: Shota Furuya
1. 市場の概要
EV年間新規登録台数
2018年から2023年にかけて、ノルウェーの電気自動車(EV)市場は急速な成長を遂げ、EVの新規登録台数は継続して増加しています。
2018年のEV全体の新規登録総数は105,574台に達し、バッテリー電気自動車(BEV)が全体の54.3%を占めました。
2019年は、自動車全体の新規登録台数に占めるEVの割合は53.4%(79,489台)となり、BEVが40.6%を占めました。EV市場全体のシェアはわずかに落ち込んだものの、電動化の傾向は依然として強くなっています。
2020年には、EV市場は再び上昇傾向を取り戻し、EVの新規登録台数は105,574台となり、年間の総登録台数に占めるEVの割合は86.1%となりました。BEVが引き続き優勢で、新規登録台数の54.3%を占め、プラグインハイブリッド車(PHEV)も2割ほどを占めています。
2021年にはさらに成長が加速し、151,812台のEVが登録され、年間の総登録台数の86.1%を維持しています。BEVの市場シェアは64.5%と大幅に増加する一方、PHEVは21.7%にとどまっており、BEVへの移行が主流であることが理解できます。
このようなEVの増加傾向は2023年も続いており、年間のEV登録台数は114,084台となり、総登録台数の89.9%を占めました。BEVが81.9%を占め、PHEVは8.0%でした。
この数年間、PHEVよりもBEVを好む傾向が明らかに強まっており、ノルウェーが電動モビリティへの世界的移行においてリーダーシップを発揮していることが示されています。
充電設備
2020年から2023年にかけて、ノルウェーの充電インフラはEV普及の高まりとともに大きく成長しました。2020年に国内には13,823カ所の充電ポイントがあり、AC充電器10,199カ所、DC充電器3,624カ所に拡大しました。成長は続き、2021年には17,437カ所、2022年には20,705カ所、2023年には24,623カ所に達し、人口10万人あたり457カ所の充電ポイントが導入されています。充電インフラの急速な拡大は、増加するEV市場を支える重要な役割を果たし、ドライバーは全国で充電設備を利用できるようになりました。
2. 政府の政策
インセンティブ
2024年4月時点で、ノルウェーは代替燃料自動車とインフラの普及を促進することを目的としたインセンティブと法規制を導入しています。
自動車登録税の優遇(Registration tax benefits):政府は自動車登録税の優遇措置を導入し、2023年からはすべての新型EVに車両重量に応じた購入税が適用されています。中古BEVの登録税は、75%の割引が適用されていた従来の施策を廃止し、一律575ユーロの支払いが適用されています。
自動車税の優遇(Ownership tax benefits):BEVとPHEVは、廃車手数料249ユーロを支払うのみに減免されています。BEVとPHEVの年間道路税は、455ノルウェークローネ(NOK、48ユーロ)に設定されています。
社用車の税制優遇(Company tax benefits):社用車の税制優遇措置は年々徐々に縮小しており、これまでの減税率は、2000〜2008年は25%、2009〜2017年は50%、2018〜2021年は40%と変化し、2022年からは20%となっています。
購入補助(Purchase subsidies):現在、ノルウェーのEV購入に対する補助金はありません。
付加価値税の優遇措置(VAT benefits):50万NOK(44,000ユーロ)以下のBEVは、付加価値税(25%)が免除されます。50万NOKを超える場合、超えた分の金額のみがVATの対象となります。
その他の経済的メリット:2023年3月からBEVの道路交通保険税は年間264ユーロに設定されており、ICEと比べて15%の割引となっています。その他にも、有料道路における通行料の減免、バスレーンへのアクセス優遇、リースに対する付加価値税の減免など、EVに対するさまざまな優遇・減免措置がとられています。また、2017年に「充電の権利法」が成立し、集合住宅の住民にも充電設備を設置する法的権利が認められています。
地域のインセンティブ(Local incentive):オスロ、ベルゲン、ベーラムでは、EV充電インフラの整備や設置に対して、住宅組合に助成金を支給しており、最大支援額は5万NOKから100万NOKとなっています。国レベルでは、新しい建物や駐車場では、最低6%の駐車スペースをEVに割り当てることが規制で義務付けられています。さらに、ノルウェー電気自動車協会やエネルギー会社フォートゥムなどの団体が提供する充電チップにより、利用者は割引価格で全国の充電ユニットにアクセスできます。
3. 主要な機関・団体とレポート
🏢 機関・団体
Enova SF
Enova SF は、気候環境省が所有する国営企業です。環境に配慮したエネルギーの生産と消費の促進を目的として、気候・エネルギー基金の運営などをおこなっています。
📝 レポート
低排出への移行: 2050年に向けた気候政策の選択(2023年10月)
The transition to low emissions: Climate policy choices towards 2050
概要:このレポートは、ノルウェーの2050年に向けた気候変動対策をまとめたものです。2030年までに温室効果ガス排出を1990年比で50~55%削減することを目標に掲げ、交通だけでなく産業部門も対象にした長期戦略を進めています。モビリティ政策では、交通分野が脱炭素化のカギとされています。特に、ノルウェーではEVの普及が進んでおり、EV購入に対する税優遇や高速料金の割引などの支援策が導入されています。
Enova 2022 年次報告書(2023年)
Årsrapport 2022
概要:このレポートでは、ノルウェー国内のエネルギー転換を支える取り組みと成果が詳述されています。2022年は、エネルギー価格の高騰を背景に、個人や企業からの相談が急増し、特にスマート電力制御や太陽光パネル設置への関心が高まりました。同年の予算7.6億NOKのうち、5.7億NOKが6,300件以上のプロジェクトに充てられ、特に輸送分野が重点的に支援されました。この分野では電動商用車購入が活発で、全体予算の53%が使われています。また、住宅市場でも太陽光発電や省エネリフォーム支援が拡大され、エネルギー効率の向上を促進しました。
4. 参考文献
- The 2050 Climate Change Committee (2024) Final report: NOU 2023: 25 The transition to low emissions – climate policy choices towards 2050. klimautvalget 2050.
- European Union. (2024). Norway. European Alternative Fuels Observatory.
- Enova SF (2023) Årrsrapport 2022.
- MarkLines Automotive Industry Portal (2024). Norway – Automotive Sales volume.
免責事項
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